令和3年〜7年度 学術変革領域研究A 生物を凌駕する 無細胞分子システムのボトムアップ構築学 |
計画班
A01班(有機化学)
超高感度バイオマーカー・ウイルス検出を実現する人工細胞センサーのボトムアップ構築
研究概要
A01班では、極微量のバイオマーカーやウイルスを超高感度に検出可能な「人工細胞センサー」をボトムアップに構築します。さらに、人工細胞センサーをデジタル診断チップヘ応用すると同時に、動物体内のバイオマーカー・ウイルスのex vivo/in vivo検出・診断への展開を目指します。具体的には次の課題に取り組みます。
- 加水分解酵素型バイオマーカーを検出する超高感度人工細胞センサーのボトムアップ構築
- 非酵素型バイオマーカーを検出する超高感度人工細胞センサーのボトムアップ構築
- 超高感度人工細胞センサーの計測・診断技術への展開
本研究では、機能性人工合成分子、脂質、タンパク質、核酸、蛍光プローブといった異種材料を組み合わせ、バイオマーカーやウイルスを検知してその一分子の情報を数百・数千倍以上の蛍光•発光シグナルに変換可能な超越・人工細胞システムを構築します。また、その過程において、多成分の方成分と生体分子の組み合わせ探索を行い、標的分子の検知、脂質膜を介した情報伝達、リポソーム内部でのシグナル増幅や濃縮という3つの機能を実現・連動させるための分子システム設計基盤と化学原理を確立します。本研究は、B01班、B02班、E01班とも共同で実施します。
キーワード
人工細胞センサー、機能性人工分子、シグナル増幅、センサー
関連文献
JACS 2013, 135, 12684., Biochemistry, 2020. 59, 205., ACS Chem. Biol. 2021, 16, 1557.
B01班(生物工学)
完全再構成型ウイルス・細菌様粒子のボトムアップ構築
研究概要
ウイルスも細菌細胞も、自然が創り出した精巧な分子システムです。B01班では、研究代表者らが独自に開発したリポソームベースの人工粒子作製技術を発展させ、実用的な細菌様粒子BLP(≃1μm) とウイルス様粒子VLP(≃0.1μm)を、バイオ分子と人工材料から計算科学も駆使しながらボトムアップ構築します。
例えば、空気浄化に利用可能な耐乾燥性と物理的強度に優れた固定化BLP型触媒、ドラッグデリバリーシステムに資する膜融合型VLPと物質分泌型BLP、感染機構の解明と創薬に利用可能な安全なVLP/BLP等、調べる、守るという出口を見据えた実用的な超越分子システムを創製します。粒径、成分組成、分子配向、組立順位、流動性等の構築因子の組合せ探索により、相互作用を生み出す分子の時空間的配置を制御して分子システムを構築する方法論を示します。また、VLP(ナノ空間)とBLP (ミクロ空間)の比較により、スケールをまたいで構造の複雑化と秩序形成が起こる機構を解明、制御し、超越分子システムを構築する学理を導きます。
加えて、B02, C01, D01, E01班などと共同で新たな超越分子システムの構築も行います。
キーワード
細菌様粒子、ウイルス様粒子、相互作用解析
関連文献
J.Am. Chem.Soc. 141, 2019, 19058; Green Chem. 22, 2020,1258; J. Colloid Interface Sci. 606, 2022, 628; Microbial. Spectr. 9,2021, e0025
B02班(合成生物学)
天然では起こり得ない進化を実現する無細胞分子システムのボトムアップ構築
研究概要
B02班では、自然界では起こりえない進化を実験室で実現する無細胞分子システムをボトムアップに構築します。次に、そのシステムを用いて社会実装に資する分子を創り出します。具体的には、次の3つの課題に取り組みます。
- 膜タンパク質の実験室進化を可能とする分子システムを構築し、創薬研究等に資する膜タンパク質変異体を導出する。
- 人工コドン表を持つ無細胞タンパク質合成系を用いて実験室進化を可能とする分子システムを構築し、バイオセンサーに実装できる酸化耐性酵素を導出する。
- 無細胞タンパク質合成系を用いた人工酵素集合体の酵素活性の実験室進化を可能とする分子システムを構築し、産業上重要なキラル化合物の高効率生産系を導出する。
上記の実験室進化を実現する分子システムをバイオ分子や人工材料を組み合わせて構築します。また、その過程において様々な配列、変異、材料の組み合わせ探索(最適解の探索)を行い、無細胞分子システム構築に関する指針を明らかにすることを目指します。
加えて、A01, B01, D01班などと共同で新たな無細胞分子システムの構築も行います。
キーワード
進化分子工学、無細胞タンパク質合成系、相互作用解析
関連文献
Proc Natl Acad Sci US A, 2013, 110, 16796; ACS Synth Biol, 2018, 7, 2537; Eukaryot. Cell, 2013, 12(8), 1106
C01班(電気化学)
De novo細胞膜分子システムのボトムアップ構築
研究概要
C01班では、天然には存在しない人工的に設計した(de novo設計)分子をシステム化し人工の細胞膜システムをボトムアップに構築します。生きている細胞の膜部分はリン脂質、ステロール類に加え、数多くの膜タンパク質が埋まっています。膜タンパク質は細胞内外の物質、エネルギー、情報などのやりとりを担う重要なタンパク質です。
本計画では、リン脂質二分子膜構造を持つ細胞膜を人工的に構築します。そのときに人工的に設計したナノポアと呼ばれるナノサイズの孔を持つ分子、また物質輸送機能を持つ膜輸送体分子を埋め込み、脂質膜、ステロール、膜輸送体の複数分子をシステム化したde novo細胞膜分子システムの確立を目指します。そのために、本計画班ではマイクロ微細加工技術、マイクロ流体技術、電気化学計測技術、固体NMR分光法を基盤としてマイクロサイズの人工細胞膜システムを構築していく予定です。
加えて、A01, B01, B02班、D01班などと共同で新たな人工細胞膜分子システムの構築も行います。
キーワード
ナノポア計測、マイクロ流体デバイス、脂質二分子膜、固体NMR分光法
関連文献
Nature Nanotech. 2021; Micromachines 2020 (Review); ChemPhysChem 2018 (Review); Nature Chem 2016
D01班(統計科学)
計算科学に基づく「最適」無細胞分子システムのボトムアップ構築
研究概要
D01班では、実験科学と計算科学の融合を核とした超越分子システム構築のための基盤技術を開発します。特に超越分子システム構築に必要な①システム構築のための要素選定、②システム最適化設計、③設計されたシステムの物理的構築、という段階の技術基盤を完成させることを目標としています。開発した技術の応用展開として、次のつの課題に取り組みます。
- 加齢臭の原因となるノネナール検出システムの開発
- ATP生産に特化した人工解糖システムの構築
- 自己会合ペプチドを用いた酵素分子群の集積と反応効率の向上
本研究では、計算科学を活用することで、超越分子システムの構築に必要な酵素の選抜と変異体構築、および無細胞システムの出力として測定される定量データからのシステムの数理モデル化技術を開発し、当該システムの質的・量的最適化法の開発に取り組みます。この際、本研究計画班内で実施する課題に加え、他班で構築される種々の分子システムも題材として積極的に取り扱っていきます。これにより、様々な超越分子システムの構築に適用可能な実験化学と計算科学の融合アプローチ手法の確立を目指します。
特に、B01班やB02班などと共同することで、新たな無細胞分子システムの構築にも貢献していきます。
キーワード
システム最適化、統計的因果推論、ノネナール検出、ATP合成システム
関連文献
J Phys Cont Ser., 1391, 012047; Microb. Cell Fact., 18(1):1 24; Appl. Microbial. Biotechnol. 103
E01班(ナノ工学)
ナノ流体デバイスで創るナノゲルファイバー酵素分子システムのボトムアップ構築
研究概要
EO1班では、ナノ流体デバイスのナノ空間で、生体適合性をもつ人工材料のポリマーハイドロゲルとバイオ分子の酵素の相互作用を、様々なパラメーターを組み合わせて解析する。さらにD01班と共同で計算科学を駆使し酵素活性を最大限に活かせるナノ空間を探索する。さらに気相中など従来の酵素の実用範囲を遥かに凌駕する分子システムをボトムアップ構築する。これにより、ナノスケールでの最適な酵素活用法を見出し、環境浄化・クリーンエネルギーに貢献する超越分子システムを創製するプロセスの学理を見出す。
加えて、A01班、B01班、B02班との共同研究により、超越バイオセンサを開発し、人類・地球を守る超越分子システムの実現を目指す。
キーワード
ナノ流体デバイス、ポリマーハイドロゲル、酵素、相互作用解析
関連文献
Adv. Mater., 2016, 28, 2209; Adv. Mater., 2018, 30, 1702419; ACS Appl. Polym. Mater. 2021, 3, 631.